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■札幌コンサートホール、あれから10年
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大ホールステージサイド |
■はじめに
誕生から早や10年が経過し、今では国際的にも「名だたるホールを超越したホール」との高い評価を得
ているキタラ。
 私にとってこの種の設計は、全く初めての経験でした。唯一、業者時代に厚生年金会館ホールの施工を
経験しましたが(と言っても入社1年目)、「設計者はどういう人物なのか」「どうしたらこのような設
計ができるのか」「ホール天井内のダクトは、なぜモルタル仕上げをするのか」「ホール床下になぜグラ
スウールを敷き詰めるのか」等々、羨望と疑問で終始し、訳の分からぬままでしたが竣工を見届けまし
た。そして機会があれば「ホールの設計をやって見たい」と思ったものですが、一方でそんなチャンスは
訪れることはないだろうし、ましてや設計なんて出来る筈がないなどと考えたものです。それから20数年
が経ち、まさかその機会が訪れるとは思ってもいなかったので、キタラの設計を受注した時は、「千載一
遇のチャンス!」と、念願が叶った喜びと不安が錯綜し、興奮したものです。のちのち、数々の試練が待
ち受けてるとも知らず・・・。
そして、間もなくして一つ目の大きな試練が立ちはだかりました。
■大ホール音響対策
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大ホール音響反射板 |
大ホールステージの真上に、ちょうど海中を優雅に泳ぐエイのような形をして、存在を誇示するかのよ
うに天井に吊り下げられているのが音響反射板です。その目的と言えば、ステージ上で発せられた音をホ
ール全体に均等にゆきわたらすもので、これが音響的に重要な役割を担ってるのは既にご承知のことと思
います。国内外どこのホールにおいても各特性に合わせ、形・材質等の違いこそ有れ良質な音響効果を醸
し出すためには不可欠であるとして、その配置や形状、吊る高さなどホール計画の中で何よりも最優先さ
れるものです。
当然ながらキタラも基本構想段階から、ステージ直上に音響反射板が計画されていました。
それは、ステージをほぼ覆い被すような巨大なものでした。しかも、その後の照明計画で、ステージを演
出するために照度2000lxの照明器具を反射板に取付けられることになり、その直射熱が演奏家達にとって
過酷な状況になるであろうことは容易に推測できました。この巨大な音響反射板をかいくぐり、ステージ
上の演奏者達に快適な環境を創り出すためにはどうするべきか?
そうこうしてる間に、朗報が飛び込んできました。建築が当初から予定していたアメリカ・ヨーロッパの
ホール視察のために選定したホールの中に、キタラよりもっと大きな音響反射板を持つホールがあること
がわかったのです。目的地はテキサス州ダラス、視察場所はダラスシンフォニーホール。
到着日はアメリカ日付6月30日15時、気温40度と暑く、時差ボケに疲労も加わり、そのままホテルにチ
ェックイン。翌日の調査に備えることになりました。
翌朝、音響設計を担当したサム・バーコウ氏の案内のもと、主目的である音響反射板のある大ホール
へ。大ホール客席数は最大で約4千人収容とか。中に入ると意外とコンパクトに感じたのは4階建てのせい
か。そんな事を考えながらも目は音響反射板を探していた。そしてステージ直上に視線を向けた時、まる
でUFOにも似た巨大な音響反射板が、不気味に宙に浮いているのが目に飛び込んできた。「あったあった
これが噂の反射板か!」と、思わず叫んでしまった。それは反射板というよりも、むしろ全体が稼働式の
天井と言えるほど巨大で威圧的なものでした。「こんなものがあったらステージの空調など無理ではない
のか・・・!」が第一印象でした。噂では「反射板に直接吹出口が付いており、理想的なステージ空調が行
われているようだ」と誰が言ったのか?
よくよく見ても吹出口らしき物など付いていない。「どうなってるんだー、問題がありそうだな・・・。」
と自問自答。納得出来ずバーコウ氏に質問をしてみた。説明では音響が最優先で、ステージ空調は二の次
とのことでした。その説明をもとに、再度ステージの廻りを見上げると確かに両サイドの壁に数個、線状
吹出口が付いているだけのものでした。確かにこれでは快適なステージ空調は叶わない。
遠くアメリカまで来て目にしたものは、決して納得の出来る空調ではありませんでした。しかし、この
結果は私にとって大きな収穫となりました。それは、キタラのステージ空調がどうあるべきか、建築、そ
して音響設計を説得する重要なヒントを得たからです。
大ホールでは丁度リハーサルが行われており、写真撮影が堅く禁じられましたので、その状況を記憶に
留めるため、そして貴重な体験の証しとするべくスケッチを描き持ち帰りました。
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ダラス シンフォニーホール全景 |
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スケッチ
ダラス シンフォニーホール ピンスポットより |
スケッチ
ダラス シンフォニーホール 2階客席より |
■NC15達成
最後の難関である騒音測定検査が始まりました。キタラの騒音目標値は、NC15以下。《NC15とはど
の位凄いことかと言うと、例えばキタラ大ホールの3階席に居ながら、パイプオルガンの横(距離にして
約60m)で、名刺を一枚床に落とした時の音が聞こえる。そんな極限の無音状態に近い静寂な空間》機器
の据付け、配管、ダクトの躯体貫通処理など防音・防振・遮音対策などの成果が問われる時です。
騒音測定検査は、NC15を無事に一発でクリアしました。
常務取締役 鈴木吉嗣
【社団法人 北海道空調衛生工事事業会 協会誌「きらめき」VOL.21より抜粋】
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